そこで起こった事

サウルの息子 (http://www.finefilms.co.jp/saul/)

ヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞。
で、


いやはや、凄い映画。


参った。
ストーリーは、アウシュヴィッツ収容所でゾンダーコマンド*1が遺体となった息子をユダヤ式に弔うために収容所内を彷徨ったり収容所内の反乱の準備に加担したり…という話。
結果、収容所のいろんな場所の様子が描かれるのだけど、映像は基本主人公のサウルが出ずっぱりで画面中央に居て、その周囲に「向こう側」が見えるのだけど、基本ボケてる。けど、それは主人公のサウルの視点でもある事が判る。だから、ラスト付近の一瞬だけ、サウルの視点がちゃんとクリアーになる瞬間が有るのだが(以下略)。
なので、どのシーンでも大抵背景で何かが起こっている。しかし見えない。だからこそ怖い。


いやこれ、本当に怖い。


背景で、「何か」が大量に転がっていたり、「何か」が倒れたり、「何か」が動かなくなっていたり…。
見えないという事は、怖い事だ。でも、絶望的な状況では、往々にして見えなくなるものかもしれない。とか思った。


で、アウシュヴィッツ等で行われたホロコーストに関して、戦場で起こった話だと勘違いしている人がたまに居るけど。ホロコーストは戦場での狂気によって起こった殺戮、では、無い。ホロコーストというのは間違いなく戦場から離れた「銃後」で行われた事だったりする。だからこそ、戦場でのパニックや恐怖からくる虐殺とは違う意味で、狂気を感じる


そして、ちょっと余談になるのだけど、この映画でも思うのだがドイツ人はとにかく真面目だ。
嫌味ではない。
アウシュヴィッツ等の収容所で殺された人の数を考えたら、通常では不可能かと思う位の数であったりする(それ故にホロコーストは無かったと主張する人までいる)。でも、彼らはやっちゃうのだ。というかやっちゃったのだ。これは凄い事である。(褒めてはいない)
最近はドイツ人が右傾化しているとか言われるが、たぶん本質は昔からあまり変わっていない。反ユダヤに走ると際限なく「努力」して「工夫」してやり遂げてしまうし、戦後それが「反ナチス」になると言論の自由を完全に無視して突き進んでしまう。そして今は「難民擁護」に走り、直ぐに「難民排斥」に走りだそうとしている。いつだって、方向が違うだけで突き進み始めたドイツ人は、怖い。


ともあれ、アウシュヴィッツで行われた事を追体験するという意味で、凄くよく出来た映画だと思う。オススメ。


おまけ:
いっそ、この映画を4DXとかMX4Dとかで体感式で上映すれば良いと思う。映画館の中が死臭で酷い事になるかもしれんけど。(苦笑)

*1:ユダヤ人虐殺等に加担させられるユダヤ