冷徹な鉄人

アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち (http://eichmann-show.jp/)

ヒューマントラストシネマ有楽町にて鑑賞。
で、


表面上は世紀の中継を実現させた男たちの物語だが…


ぶっちゃけ、最終的に印象に残るのはアドルフ・アイヒマンという鉄人の事。
鉄人。うん、ことの良し悪しは置いといて(いいのか?)このアイヒマンという人の鉄人というか怪物感が凄かった。
いや、映画の内容的には歴史に残る世紀の裁判の中継を実現させた男たちの話だし、そっちが本来の主題なのだろうけど、まあ後半の実際の裁判の映像を使った部分になると、どうしても、このアイヒマンという人が気になってしょうがない。というか、本来の主人公(の一人)であるドキュメンタリー監督が驚嘆(?)する位の怪物ではあった。
ストーリーとしては、ユダヤ人ではあるがイスラエルから精神的にも物理的にも一定の距離をとってきた中継をまかせられたドキュメンタリー監督と、イスラエルに住み反ナチの思想に囚われているスタッフ達のアイヒマンに対する認識の違いは非常にリアルで、おそらくそういう事があったのであろう事が分かって非常に興味深い、のだけど、繰り返すが、どうしてもアイヒマンという人が全てを持って行ってしまう感が強かった。


アイヒマンと言う人の何がそう思わせるのか?
とにかく、表情が読めない。ホロコーストの罪状を読み上げられている時も、生存者による相当にエグイ証言を目の前で聞かされている時も、常に片頬を引き上げる様にしかめて表情を明らかにしない。当然感情も読めない。実際の裁判は相当な時間続けられた筈なのだけど、最初から最後までずっとそうだった。凄い鉄人である。(褒めてません)


映画的には、アイヒマンにほんの一部の事実を認めさせた時点で「主人公達が勝った」様に演出されているけど、ぶっちゃけ最後まで勝てなかったんだと思う。おそらくアイヒマンは処刑されるその瞬間まで自身の感情を明かさずにいたのではなかろうか?
そう思わせる鉄人ぶりだった。


そんなわけで、正直なところ(一部の人たちの評にあるような)報道の自由がどうたらとか、今の日本の現状と重ね合わせてどうたらとか、そう言った事は殆ど思わなかった。そう思わせたい人がいるのは解るけど、この映画の現実と今の日本の現実の乖離ぶりを見れば、まあ良くも悪くも日本はぬるい。当時のイスラエルと比較するのはイスラエルに失礼ですらあると思う。


ともあれ、アドルフ・アイヒマンの裁判は如何に中継されたのか、その陰でどんな事が有ったのかを知りたい人。そして、アイヒマンという冷徹な鉄人を見たい人にはオススメしておきたい。