冷戦構造の裏側

敵こそ、我が友 〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生〜 (http://www.teki-tomo.jp/)

銀座テアトルシネマにて鑑賞。
ドイツ親衛隊保安部(SD)として、ユダヤ人やレジスタンスを虐殺したとして戦犯となったクラウス・バルビーの波乱に富んだ半生の記録。
面白いというと不謹慎だけど、非常に興味深いドキュメンタリーだった。
この映画を見ると、第二次大戦後にアメリカや西ドイツに雇われたバルビーを始めとするナチス・ドイツ残党によって東西冷戦構造が「作られた」ような印象すら受ける。非常に興味深い。
さらに思うのが、このバルビーが反共のスパイとして、さらに拷問と軍事活動の専門家として、極めて勤勉だという事。第二次大戦のヨーロッパでそれなりの地獄を見てきたにも関わらず、静かな生活を送る事は考えていなかったらしい。アメリカやボリビアで見方によっては極めて大胆に活動しており、第四帝国の建国を本気で考えていたらしい。
もしかすると、一番静かな生活を送ったのは、晩年終身刑の判決を受けてから獄死するまでの僅かな期間だけだったのかもしれない。
ひとつ判らないのが、晩年フランスに送られ初めて戦犯として裁かれる部分で、最も大きな罪状だと思われるリヨンの孤児院でユダヤ人の子供を収容所に送った件について、本当に彼にその決定権が有ったかについての掘り下げが殆ど無い。おそらくフランスでは既定の事実として認識されているんだろうけど、その部分での法廷での論戦ももうちょっと観たかった。(レジスタンスの逮捕、処刑については罪に問えない可能性が高いと思う。当時の国際法ではレジスタンスは国軍の兵士ではないので戦時捕虜として扱う義務は無かった筈*1 )
フランス映画だから仕方ないとは言え、この辺はちょっとどうかと思った。
それと、フランスにとってナチス・ドイツは「絶対悪」なのだろうけど、そのフランスは戦前戦後を通してアルジェリアインドシナで何をやってきたのか(さらに自分達で手を汚さずに外人部隊も使うという卑劣なやり方もしてきた)という部分を考えると、「お前等もどうなんだ?」という思いも湧いてくる。


ともあれ、第二次大戦後のアメリカを中心とする冷戦構造や南米で復活していたナチズムについて興味が有る人なら、観ておいて損は無い筈。

*1:この辺については、フランスが分裂してレジスタンスを国軍兵士として扱えなかったフランスの責任も無いではないと思う。