それでも日常は続く

この世界の片隅に (http://konosekai.jp/)

MOVIX亀有にて鑑賞。
例によって原作は読んでいない。
で、

これは究極の日常系アニメ。

だと思った。
(当時としては)平凡な日常が次第に蝕まれていき、そして壊れてしまった後も、やっぱり日常は続くのだ。という事をテーマにしている様に観えた。
太平洋戦争、それも呉空襲と広島原爆投下を描いてはいるけど、本質は反戦を描きたいというよりは、壊れていく日常の象徴といった印象を受けた。なので、これは時代を現代に変えればきっと震災を背景にしても同じような物語を紡げるのではないか? とも思った。
そう、大きな悲劇の後でも人は笑ったり泣いたり怒ったり怒られたりしながら生きていくし、大きな悲劇の後でも格好良い水兵さんの話で盛り上がったりする。人は悲しみ続けて生きてはいけない。そう思う。

というテーマとは別に、この映画、細部の作り込みも凄い。序盤に登場する戦艦大和の描写や、呉空襲の尖兵として飛来するP-51マスタングの描写も時間が短いのに(P-51なんかチラっとしか映らないのに)、実に緻密に描かれている。
そして、広島の原爆投下の描写でも、これは今まで見たことなかったのだけど、広島の中からではなく、隣町(?)の呉ではどう捉えられていたのかの描写が実に緻密かつリアルで興味深かった。

それと、キャストののん(能年玲奈)が良かった。冒頭で語られるように、ちょっと「ぼうっとした少女」をそして後には「何が起きても生きていく力強い女性」を完璧に演じていて素晴らしかった。

で、この映画エンドロールに仕掛けがあるので、劇場が明るくなるまで席を立ってはいけない。エンドロールが本編で描けなかった後日譚にないるのだ。さらにもう一つのエンドロール(?)では、本編で割愛された(と思う)重要な登場人物を描いたサブストーリーが描かれている。これはこれで必見。

そうそう、これは批判ではなく、むしろ褒めたいんだけど、劇中で当時の時代背景や風俗が描かれているのに、細かい説明が一切無い。これは当時の知識が全く無いとちょっと辛いかもしれないけど、それを一々やってしまうと説明だけでほぼ全編になってしまって、肝心な部分がボヤケてしまうと思うので、英断だと思う。*1

ともあれ、かなりの傑作で大オススメなので、これは観るべき。と言うか、観ろ。

P.S.:
それにしても、今年は邦画は記録的な大豊作。例年だったらベストに選べるような作品がとても多いね。

*1:例えば白木リンの働いている店は本編では全く説明が無く。公式サイトでは「遊郭」となっている。でも、あれは「カフェー」(当時の喫茶店風俗営業)っぽかったな。